1.入会権確認の訴えの固有必要的共同訴訟性
+判例(S41.11.25)
理由
職権をもつて調査するに、入会権は権利者である一定の部落民に総有的に帰属するものであるから、入会権の確認を求める訴は、権利者全員が共同してのみ提起しうる固有必要的共同訴訟というべきである(明治三九年二月五日大審院判決・民録一二輯一六五頁参照)。この理は、入会権が共有の性質を有するものであると、共有の性質を有しないものであるとで異なるとこるがない。したがつて、上告人らが原審において訴の変更により訴求した「本件土地につき共有の性質を有する入会権を有することを確認する。若し右請求が理由がないときは、共有の性質を有しない入会権を有することを確認する」旨の第四、五次請求は、入会権者全員によつてのみ訴求できる固有必要的共同訴訟であるというべきところ、本件右請求が入会権者と主張されている部落民全員によつて提起されたものでなく、その一部の者によつて提起されていることは弁論の全趣旨によつて明らかであるから、右請求は当事者適格を欠く不適法なものである。本件土地を上告人らが総有することを請求原因として被上告人に対しその所有権取得登記の抹消を求める第二次請求もまた同断である。
さらに、上告人らの本件第三次請求は、本件土地が又重財産区の所有に属することを請求原因として、被上告人に対しその所有権取得登記の抹消を求めるものである。そうとすれば、本請求の正当な原告は又重財産区であつて、上告人らは当事者適格を有しないものというべきである。本訴もまた不適法である。
よつて、上告人ら代理人森吉義旭、同浅石大和の上告理由中前文および第一点ないし第一〇点に対する判断を省略し、本件第二ないし第五次請求について本案の判断をした第一、二審判決を破棄し、右請求を却下すべきものとする。
同第一一、一二点について。
論旨は、上告人らが時効により本件土地の共有権を取得したことを請求原因とし、被上告人に対しそれぞれ持分三三〇分の一の移転登記を求める上告人らの第一次請求を排斥した原判決の判断に、法令違背、事実誤認、判断遺脱の違法がある、という。
しかし、上告人らが時効取得の基礎として主張する占有は、又重部落民全員ないしは又重部落としての団体的占有であることもその主張自体に照して明らかであるところ、このような団体的占有によつて個人的色彩の強い民法上の共有権が時効取得されるとは認めらないから、本請求は、その主張自体失当であるというべきである。そうとすれば、論旨はすべて無用の論議に帰するから採用することができない。
よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官山田作之助は退官につき署名押印することができない。裁判長裁判官 奥野健一)
・前提として判例は当事者適格について管理処分権説をとっている。
管理処分権説=当事者適格は訴訟物である権利義務その他の法律関係についての管理処分権の所在によって定まるという考え方
2.判例の展開
判例(H6.5.31)
理由
一 上告代理人高木修の上告理由第一点について
1 入会権は権利者である一定の村落住民の総有に属するものであるが(最高裁昭和三四年(オ)第六五〇号同四一年一一月二五日第二小法廷判決・民集二〇巻九号一九二一頁)、村落住民が入会団体を形成し、それが権利能力のない社団に当たる場合には、当該入会団体は、構成員全員の総有に属する不動産につき、これを争う者を被告とする総有権確認請求訴訟を追行する原告適格を有するものと解するのが相当である。
けだし、訴訟における当事者適格は、特定の訴訟物について、誰が当事者として訴訟を追行し、また、誰に対して本案判決をするのが紛争の解決のために必要で有意義であるかという観点から決せられるべき事柄であるところ、入会権は、村落住民各自が共有におけるような持分権を有するものではなく、村落において形成されてきた慣習等の規律に服する団体的色彩の濃い共同所有の権利形態であることに鑑み、入会権の帰属する村落住民が権利能力のない社団である入会団体を形成している場合には、当該入会団体が当事者として入会権の帰属に関する訴訟を追行し、本案判決を受けることを認めるのが、このような紛争を複雑化、長期化させることなく解決するために適切であるからである。
2 そして、権利能力のない社団である入会団体の代表者が構成員全員の総有に属する不動産について総有権確認請求訴訟を原告の代表者として追行するには、当該入会団体の規約等において当該不動産を処分するのに必要とされる総会の議決等の手続による授権を要するものと解するのが相当である。けだし、右の総有権確認請求訴訟についてされた確定判決の効力は構成員全員に対して及ぶものであり、入会団体が敗訴した場合には構成員全員の総有権を失わせる処分をしたのと事実上同じ結果をもたらすことになる上、入会団体の代表者の有する代表権の範囲は、団体ごとに異なり、当然に一切の裁判上又は裁判外の行為に及ぶものとは考えられないからである。
3 以上を本件についてみるのに、記録によると、上告人大畑町部落有財産管理組合は、大畑町の地域に居住する一定の資格を有する者によって構成される入会団体であって、規約により代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定しており、組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず存続することが認められるから、右上告人は権利能力のない社団に当たるというべきである。したがって、右上告人は、本件各土地が右上告人の構成員全員の総有に属することの確認を求める訴えの原告適格を有することになる。また、右上告人の代表者である組合長Aは、訴えの提起に先立って、本件訴訟を追行することにつき、財産処分をするのに規約上必要とされる総会における議決による承認を得たことが記録上明らかであるから、前記の授権の要件をも満たしているものということができる。前記判例は、村落住民の一部の者のみが全員の総有に属する入会権確認の訴え等を提起した場合に関するものであって、事案を異にし本件に適切でない。
そうすると、右と異なる見解に立ち、右上告人が原告適格を欠くとして本件総有権確認の訴えを却下した原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があり、論旨は理由がある。
二 同第二点について
1 権利能力のない社団である入会団体において、規約等に定められた手続により、構成員全員の総有に属する不動産につきある構成員個人を登記名義人とすることとされた場合には、当該構成員は、入会団体の代表者でなくても、自己の名で右不動産についての登記手続請求訴訟を追行する原告適格を有するものと解するのが相当である。けだし、権利能力のない社団である入会団体において右のような措置を採ることが必要になるのは入会団体の名義をもって登記をすることができないためであるが、任期の定めのある代表者を登記名義人として表示し、その交代に伴って所有名義を変更するという手続を採ることなく、別途、当該入会団体において適切であるとされた構成員を所有者として登記簿上表示する場合であっても、そのような登記が公示の機能を果たさないとはいえないのであって、右構成員は構成員全員のために登記名義人になることができるのであり、右のような措置が採られた場合には、右構成員は、入会団体から、登記名義人になることを委ねられるとともに登記手続請求訴訟を追行する権限を授与されたものとみるのが当事者の意思にそうものと解されるからである。このように解したとしても、民訴法が訴訟代理人を原則として弁護士に限り、信託法一一条が訴訟行為をさせることを主たる目的とする信託を禁止している趣旨を潜脱するものということはできない。
2 これを本件についてみるのに、記録によると、上告人Bは、訴えの提起に先立って、上告人大畑町部落有財産管理組合の総会における構成員全員一致の議決によって本件各土地の登記名義人とすることとされたことが認められるから、本件登記手続請求訴訟の原告適格を有するものというべきである。
そうすると、右と異なる見解に立ち、上告人Bが原告適格を欠くとして本件登記手続請求の訴えを却下した原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があり、論旨は理由がある。
三 結論
以上の次第で、原判決は破棄を免れず、更に本件を審理させるためこれを原審に差し戻すこととする。
よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 園部逸夫 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)
++解説
《解 説》
一 本判決は、(1) 入会権の権利者である村落住民が権利能力のない社団に当たる入会団体を形成している場合に、右入会団体に入会権(総有権)確認の訴えの原告適格が認められるか、(2) 入会団体の代表者が入会権(総有権)確認の訴えを原告の代表者として追行するのに特別の授権を要するか、(3) 入会権の目的である不動産につき、入会団体の代表者でない構成員が登記手続請求訴訟の原告適格を有する場合があるか、の三つについて判断を示したものである。いずれも最高裁として初めての判断であるばかりか、入会権をめぐる訴訟の入口においてしばしば問題とされ、訴訟による紛争の解決が長期化する原因にもなっていた事項についての判断を示したものであり、実務に与える影響は大きいものと思われる。
二 事案の概要は、次のとおりである。X1は、A町の地域に居住する一定の資格を有する者によって構成される入会団体であるが、最一小判昭39・10・15民集一八巻八号一六七一頁、本誌一六九号一一七頁の示した権利能力のない社団の要件を満たしている。X2は、X1の代表者でない構成員の一人であるが、本件訴訟の提起に先立ってX1の総会における構成員全員一致の議決によって本件土地(五三筆の土地)の登記名義人とすることとされた者である。
本件土地は、大正四年に当時のA部落の戸主二四名全員を共有者として所有権移転登記がされたが、そのうちの一人であるBにつき登記簿上数次の相続による持分移転登記がされ、現在Cが共有持分二四分の一の所有名義人となっている。Y1・Y2は、Cの相続人であるが、本件土地につき共有持分を有すると主張して、本件土地がX1の構成員全員の総有に属することを争っている。Y3は、登記簿上Cの持分につき権利者として抵当権設定登記等がされている者である。
X1は、Y1・Y2を相手に、本件土地がX1の構成員全員の総有に属することの確認を求め、X2は、本件土地につきY1・Y2に対して真正な登記名義の回復を原因とする共有持分全部移転登記手続を、Y3に対して抵当権設定登記等の抹消登記手続を求めた。
一審は、X1が本件総有権確認請求訴訟の原告適格を有すること、X2が本件各登記手続請求訴訟の原告適格を有することをいずれも認めた上、X1・X2の請求を認容する旨の判決をした。これに対し、二審は、入会権の確認を対外的に非権利者に対して求める総有権確認請求訴訟は、権利者全員が共同してのみ提起し得る固有必要的共同訴訟であり、権利者全員が共同して提起しない限り原告適格を欠く不適法なものであるとの理由で、X1は本件総有権確認請求訴訟の原告適格を有しないとし、また、入会権の目的である不動産についての登記請求訴訟も固有必要的共同訴訟であるところ、X1の構成員によるX2に対する本件訴訟の提起遂行権限の委託は、形式的には、信託法一一条の訴訟信託の禁止に抵触するものであり、実質的には、各構成員は共有におけるような持分権を有しないのであるから元来委託すべき権限を有せず、右権限の委託はそれ自体無意味であるとの理由で、X2は本件各登記手続訴訟の原告適格を有しないとして、一審判決を取り消し、X1・X2の訴えをいずれも却下する旨の判決をした。
三 入会団体と総有権確認請求訴訟の原告適格
最二小判昭41・11・25民集二〇巻九号一九二一頁、本誌二〇〇号九五頁は、入会権が権利者である一定の部落民に総有的に帰属するものであることを理由に、入会権の確認を求める訴は、権利者全員が共同してのみ提起しうる固有必要的共同訴訟というべきであるとの判断を示したが、本件の二審は、この判例の趣旨を強調して、入会権の権利者が権利能力のない社団に当たる入会団体を形成している場合であっても、総有権確認を求めるには権利者全員が原告となるという形の訴訟しか認めないとしたものである。
これに対し、本判決は、判決要旨一のとおり判示して、権利能力のない社団に当たる入会団体に総有権確認請求訴訟の原告適格を認めることを明らかにした。そして、その理由として、「訴訟における当事者適格は、特定の訴訟物について、誰が当事者として訴訟を追行し、また、誰に対して本案判決をするのが紛争の解決のために必要で有意義であるかという観点から決せられるべき事柄である」との基本的立場を宣明した上、入会権が「村落において形成されてきた慣習等の規律に服する団体的色彩の濃い共同所有の権利形態であることに鑑み」、入会団体が権利能力のない社団に当たる場合には、「当該入会団体が当事者として入会権の帰属に関する訴訟を追行し、本案判決を受けることを認めるのが、このような紛争を複雑化、長期化させることなく解決するために適切であるからである。」と説示した。
右の説示の趣旨からすると、本判決は、権利能力のない社団である入会団体に入会権の帰属に関する訴訟についての被告適格をも認めるとの立場に立っているようである。
本判決の右の結論は、現在のほとんどの学説の立場とも一致するものであろう(舟橋諄一・物権法四五二頁、星野英一=五十部豊久・法協八四巻一一号一五七三、一五七八頁、福永有利・民商法五六巻六号九八三、九八七頁、小山昇・民訴講座一巻二五六頁など)。
四 入会団体の代表者に対する特別の授権の要否
権利能力のない社団である入会団体に原告適格を認めるとの立場に立つとしても、権利者である村落住民が原告となって訴えを提起する場合についての昭和四一年判例の趣旨との調和のとり方が次の問題となる(菊井=村松・全訂民事訴訟法Ⅰ三四一頁)。
舟橋諄一・物権法四五三頁が、このような訴えの提起は入会権の処分にも匹敵するとして、訴えの提起には「入会権者全員の同意を要するものと解すべきであろうか」と疑問を提起し、その後、学説及び下級審判決が一定の方向を見出せないでいる状況の中で、本判決は、判決要旨二のとおり判示して、入会団体の代表者が総有権確認請求訴訟を原告の代表者として追行するには、当該入会団体の規約等において当該不動産を処分するのに必要とされる総会の議決等の手続による特別の授権を要するものとの立場を明らかにした。
本判決は、この問題を、原告適格の問題とは区別して入会団体の代表者の訴訟追行についての権限の問題として位置付けた上、一方で、入会団体による訴訟の提起・追行に構成員全員の承認又は委任を要するとの立場(なお、この立場は、右の承認又は委任を原告適格の問題として位置付けているのか、本判決のように代表者の権限の問題として位置付けているのか必ずしも明らかではない。)を排し、他方で、入会団体の代表者として訴訟を提起・追行する者が真実の代表者であればよく、特別の授権を要しないとの立場を排したものである。
そして、本判決は、総有権確認請求訴訟についてされた確定判決の効力が入会団体の構成員全員に対して及ぶことを前提にして、右の結論を採る理由として、入会団体が敗訴した場合には構成員全員の総有権を失わせる処分をしたのと事実上同じ結果をもたらすことになること、及び入会団体の代表者の有する代表権の範囲は、団体ごとに異なり、当然に一切の裁判上又は裁判外の行為に及ぶものとは考えられないことを挙げている。
X1においては、その規約上、総会は構成員の三分の二以上の出席がなければ成立せず、財産処分についての議決は出席した構成員の三分の二以上の賛成をもってしなければならないとされているが、本訴の提起に先立って、総会における構成員全員一致の議決による承認がされている。
なお、入会団体が原告となる場合に限って特別の授権が必要である旨判示しているところからみて、本判決は、被告として応訴する場合には特別の授権を得る必要がないものと考えているものと思われる。
五 登記手続請求訴訟と原告適格
判例は、権利能力のない社団に当たる場合には、当該社団の性格等を顧慮することなく、一律にその積極財産及び消極財産は、構成員の総有に属すると解している(最一小判昭32・11・14民集一一巻一二号一九四三頁、最一小判昭39・10・15民集一八巻八号一六七一頁、最三小判昭48・10・9民集二七巻九号一一二九頁、本誌三〇二号一四三頁、最二小判昭55・2・8裁判集民一二九号一七三頁)ところ、最二小判昭47・6・2民集二六巻五号九五七頁、本誌二八二号一六四頁は、権利能力のない社団の資産である不動産につき、その代表者が個人名義で所有権の登記をすることができるにすぎないこと、及び登記簿上の所有名義人が代表者の地位を失い、新代表者が選任されたときは、新代表者は旧代表者に対し、当該不動産につき所有権移転登記手続をするよう求めることができることを判示した。
権利能力のない社団の代表者でない構成員が、当該社団の資産である不動産の登記名義人になることができる場合があるのか否か、登記手続請求訴訟の原告適格を有する場合があるのか否かについて、判例上は残された問題であり、学説においては、積極(吉野衛・判評一九九号一五三、一五七頁)、消極(長井秀典「総有的所有権に基づく登記請求権」本誌六五〇号一八、二一頁)の両説に分かれていた。
本判決は、権利能力のない社団である入会団体についてのものではあるが、代表者でない構成員が、当該社団の資産である不動産の登記名義人になることができる場合があるとし、さらに、判決要旨三のとおり判示して、規約等に定められた手続により登記名義人とすることとされた構成員は、入会団体の代表者でなくても、自己の名で右不動産についての登記手続請求訴訟を追行する原告適格を有するとの立場を明らかにした。
なお、前記の昭和四七年判例は、権利能力のない社団の資産である不動産は構成員全員のために信託的に代表者個人の所有とされることをその理由としたが、本判決は、入会団体の規約等に定められた手続により登記名義人とすることとされた構成員個人に不動産の所有権又は登記請求権が信託的に移転するというような理論構成を採っておらず、当該不動産の所有権又は登記請求権は入会団体の構成員全員の総有に属することを前提にした上で、右構成員が任意的訴訟担当として原告となるのであり、それが許容されるとの理由付けによっているものであり、注目に値する。
+判例(H20.7.17)
理由
上告代理人中尾英俊、同増田博、同蔵元淳の上告受理申立て理由について
1 本件は、上告人らが、第1審判決別紙物件目録記載1~4の各土地(以下、同目録記載の土地を、その番号に従い「本件土地1」などといい、併せて「本件各土地」という。)は鹿児島県西之表市A集落の住民を構成員とする入会集団(以下「本件入会集団」という。)の入会地であり、上告人ら及び被上告人Y2(以下「被上告会社」という。)を除く被上告人ら(以下「被上告人入会権者ら」という。)は本件入会集団の構成員であると主張して、被上告人入会権者ら及び本件各土地の登記名義人から本件各土地を買い受けた被上告会社に対し、上告人ら及び被上告人入会権者らが本件各土地につき共有の性質を有する入会権を有することの確認を求める事案である。
2 原審が確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
被上告会社は、本件土地1についてはその登記名義人である被上告人Y3及び同Y4から、本件土地2~4についてはその登記名義人である被上告人Y5及び同Y6から、それぞれ買い受け、その所有権を取得したとして、平成13年5月29日、共有持分移転登記を了した。
3 原審は、次のとおり判示して、本件訴えを却下すべきものとした。
(1) 入会権は権利者である入会集団の構成員に総有的に帰属するものであるから、入会権の確認を求める訴えは、権利者全員が共同してのみ提起し得る固有必要的共同訴訟であるというべきである。
(2) 本件各土地につき共有の性質を有する入会権自体の確認を求めている本件訴えは、本件入会集団の構成員全員によって提起されたものではなく、その一部の者によって提起されたものであるため、原告適格を欠く不適法なものであるといわざるを得ない。本件のような場合において、訴訟提起に同調しない者は本来原告となるべき者であって、民訴法にはかかる者を被告にすることを前提とした規定が存しないため、同調しない者を被告として訴えの提起を認めることは訴訟手続的に困難というべきである上、入会権は入会集団の構成員全員に総有的に帰属するものであり、その管理処分については構成員全員でなければすることができないのであって、構成員の一部の者による訴訟提起を認めることは実体法と抵触することにもなるから、上告人らに当事者適格を認めることはできない。
4 しかしながら、原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
上告人らは、本件各土地について所有権を取得したと主張する被上告会社に対し、本件各土地が本件入会集団の入会地であることの確認を求めたいと考えたが、本件入会集団の内部においても本件各土地の帰属について争いがあり、被上告人入会権者らは上記確認を求める訴えを提起することについて同調しなかったので、対内的にも対外的にも本件各土地が本件入会集団の入会地であること、すなわち上告人らを含む本件入会集団の構成員全員が本件各土地について共有の性質を有する入会権を有することを合一的に確定するため、被上告会社だけでなく、被上告人入会権者らも被告として本件訴訟を提起したものと解される。
特定の土地が入会地であることの確認を求める訴えは、原審の上記3(1)の説示のとおり、入会集団の構成員全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟である。そして、入会集団の構成員のうちに入会権の確認を求める訴えを提起することに同調しない者がいる場合であっても、入会権の存否について争いのあるときは、民事訴訟を通じてこれを確定する必要があることは否定することができず、入会権の存在を主張する構成員の訴権は保護されなければならない。そこで、入会集団の構成員のうちに入会権確認の訴えを提起することに同調しない者がいる場合には、入会権の存在を主張する構成員が原告となり、同訴えを提起することに同調しない者を被告に加えて、同訴えを提起することも許されるものと解するのが相当である。このような訴えの提起を認めて、判決の効力を入会集団の構成員全員に及ぼしても、構成員全員が訴訟の当事者として関与するのであるから、構成員の利益が害されることはないというべきである。
最高裁昭和34年(オ)第650号同41年11月25日第二小法廷判決・民集20巻9号1921頁は、入会権の確認を求める訴えは権利者全員が共同してのみ提起し得る固有必要的共同訴訟というべきであると判示しているが、上記判示は、土地の登記名義人である村を被告として、入会集団の一部の構成員が当該土地につき入会権を有することの確認を求めて提起した訴えに関するものであり、入会集団の一部の構成員が、前記のような形式で、当該土地につき入会集団の構成員全員が入会権を有することの確認を求める訴えを提起することを許さないとするものではないと解するのが相当である。
したがって、特定の土地が入会地であるのか第三者の所有地であるのかについて争いがあり、入会集団の一部の構成員が、当該第三者を被告として、訴訟によって当該土地が入会地であることの確認を求めたいと考えた場合において、訴えの提起に同調しない構成員がいるために構成員全員で訴えを提起することができないときは、上記一部の構成員は、訴えの提起に同調しない構成員も被告に加え、構成員全員が訴訟当事者となる形式で当該土地が入会地であること、すなわち、入会集団の構成員全員が当該土地について入会権を有することの確認を求める訴えを提起することが許され、構成員全員による訴えの提起ではないことを理由に当事者適格を否定されることはないというべきである。
以上によれば、上告人らと被上告人入会権者ら以外に本件入会集団の構成員がいないのであれば、上告人らによる本件訴えの提起は許容されるべきであり、上告人らが本件入会集団の構成員の一部であることを理由に当事者適格を否定されることはない。
5 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、第1審判決を取り消した上、上告人らと被上告人入会権者ら以外の本件入会集団の構成員の有無を確認して本案につき審理を尽くさせるため、本件を第1審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉徳治 裁判官 才口千晴 裁判官 涌井紀夫)
++解説
《解 説》
1 本件は,原告ら26名が,1審判決別紙物件目録記載1~4の各土地は鹿児島県西之表市塰泊浦集落の住民を構成員とする入会集団(本件入会集団)の入会地であり,原告ら及び被告馬毛島開発株式会社(被告会社)を除く被告ら(以下「被告入会権者ら」という。)は本件入会集団の構成員であると主張して,被告入会権者ら41名及び本件各土地の登記名義人から本件各土地を買い受けた被告会社に対し,原告ら及び被告入会権者らが本件各土地につき共有の性質を有する入会権を有することの確認を求める事案である。
入会集団の一部の構成員が,第三者を相手方として,入会地であると考える土地について固有必要的共同訴訟たる入会権確認の訴えを提起する場合において,訴えを提起することに同調しない同じ入会集団の構成員を被告とすることができるかが争われた。
2 原審は,本件各土地につき共有の性質を有する入会権自体の確認を求めている本件訴えは,本件入会集団の構成員全員によって提起されたものではなく,その一部の者によって提起されたものであるため,原告適格を欠く不適法なものであるとして,本件訴えを却下すべきものとした。
これに対し,原告らが上告受理申立てをしたものであるが,第一小法廷は,本件を受理する決定をした上,原判決を破棄して第1審を取り消した上,本件を鹿児島地方裁判所に差し戻す旨の判断をした。
3 入会権確認の訴えが固有必要的共同訴訟であるとした判例である最二小判昭41.11.25民集20巻9号1921頁,判タ200号95頁は,「入会権は権利者である一定の部落民に総有的に帰属するものであるから,入会権の確認を求める訴えは,権利者全員が共同してのみ提起しうる固有必要的共同訴訟というべきである」と説示している。この事案では,入会集団の構成員330名のうちの316名が,第三者を相手方としてある土地の持分移転登記,抹消登記手続を求めて訴えを提起し(ただし,その後の取下げにより1審判決を受けたのは265名,控訴審判決を受けたのは216名,上告判決を受けたのは128名であるとされている。),控訴審において,原告らが請求を拡張し,当該土地について入会権を有することの確認請求を追加したが,入会権確認請求等に係る訴えは,入会権者と主張されている部落民全員によって提起されたものでなく,その一部の者によって提起されているものであるから,当事者適格を欠く不適法なものであるとされた。この判例の基礎には,ある土地が入会地であるかどうかの確認を求める訴えは,入会権の管理処分権行使の一形態であるから,入会権者全員に総有的に帰属する権限の行使として,その全員が原告となって提起されなければならないという考え方があったものと思われる。この立論を厳格かつ形式的に解するならば,入会権確認の訴えに同調しない入会権者がいるために入会権者の一部のみが第三者に対してその訴えを提起した場合には,常に原告適格を欠くということになり,入会権者の権利行使が妨げられる事態が生じ得ることになる。そこで,本件では,このような問題点の解決と上記判例の射程が争点となったものである。
本判決は,特定の土地が入会地であるのか第三者の所有地であるのかについて争いがあり,入会集団の一部の構成員が,当該第三者を被告として当該土地が入会地であることの確認を求めようとする場合において,訴えの提起に同調しない構成員を被告に加えて構成員全員が訴訟当事者となる形式で第三者に対する入会権確認の訴えを提起することができるとした。その理由として,①入会集団の構成員のうちに訴えの提起に同調しない者がいる場合であっても,民事訴訟を通じて入会権の存否を確定する必要があり,入会権の存在を主張する構成員の訴権は保護されなければならないこと,②このような訴えの提起を認めて,判決の効力を入会集団の構成員全員に及ぼしても,構成員全員が訴訟の当事者として関与するのであるから,構成員の利益が害されることはないことを挙げている。
また,前掲最二小判昭41.11.25が,「入会権の確認を求める訴えは,権利者全員が共同してのみ提起しうる固有必要的共同訴訟というべきである」と説示している点について,本判決は,入会集団の一部の構成員が,訴えの提起に同調しない構成員を被告に加えて構成員全員が訴訟当事者となる形式で,当該土地につき入会集団の構成員全員が入会権を有することの確認を求める訴えを提起することを許さないとするものではないとした。このように,本判決は,前掲最二小判昭41.11.25の判示を基本的には肯定しつつも,同最判と本件とでは,訴えの提起に同調しない構成員を被告に加えて構成員全員が訴訟当事者となっているか,入会集団の構成員全員が入会権確認を求めるという請求を立てているかどうかという点で差異がある点をとらえて,上記最判の射程を画する解釈を示したものである。
4 学説上は,固有必要的共同訴訟とされる共同所有関係に関する訴訟について,共有者のうちに非同調者がいるために,他の共有者の権利行使が妨げられる事態を避けるための方策として,①非同調者以外の者は,非同調者を被告に加えて,訴えを提起することができるとする説,②非同調者以外の者のみによる訴えの提起を許容しようとする説,③非同調者に対する訴訟告知により問題を解決しようとする説などが検討されてきたとされる(佐久間邦夫・平11最判解説(民)(下)703頁参照)。 このうち,非同調者以外の者が非同調者を被告に加えて訴えを提起することができるとする考え方については,土地の共有者のうちに境界確定の訴えを提起することに同調しない者がいるという事案において,既に最三小判平11.11.9民集53巻8号1421頁,判タ1021号128頁が採用するところとなっていた。ただし,その補足意見や判例解説において言及されているとおり,この考え方は,実質的な非訟事件である境界確定訴訟の特殊性に着目して採用されたものであり,他の必要的共同訴訟一般に採用され得るものではないと解されていたため,これを直ちに本件のような場合に当てはめることはできない。
一方,共有関係確認訴訟を見てみると,実務上,固有必要的共同訴訟である遺産確認の訴えにおいては,遺産であることの確認を求めたいと考える相続人は,他の相続人の訴訟に対する態度いかんにかかわらずそれらの者を被告として訴えの提起をすることが許されており,原告適格が問題とされることはないのであって,その点では,権利関係を確定し紛争を解決する必要がある場合には,共有関係にある物の処分権に係る訴えであっても,当事者全員が原告又は被告として関与しているのであれば,常に全員が原告になることが求められているわけではない。また,本件のような事例においては,訴訟手続によって紛争を解決すべき法律上の利益を当事者が有していると認められる上,入会集団の一部の構成員が入会権確認の訴えを提起することを許さないとするのは,管理処分権行使の方法における厳格性を貫こうとする余り,その本体である入会権自体が入会集団から不正に失われてしまうおそれがある。本判決が「入会権の存在を主張する構成員の訴権は保護されなければならない」としたのは,以上のような考慮から,権利保護の必要性を重視したものと考えられる。
なお,上告受理申立て理由が指摘する最二小判昭43.11.15裁判集民93号233頁,判タ232号100頁の事例を見ると,同最判は,本件で示された考え方を否定してはいないように解される。すなわち,この事案では,共有名義で登記されていた入会地の名義人3名がこれを第三者に売却し,又は抵当権を設定してしまったものであり,入会権者78名のうち75名が上記3名と移転登記,抵当権の登記を有する第三者を被告として,入会権確認と,抹消登記手続請求をしたのであるが,原告適格は全く問題とされていない。違法な行為をした者と第三者が被告となり,非同調者がいなかった事案であるので,別の考え方もできないわけではないが,本件のような考え方によっても原告適格に問題のない事例であったと説明することが可能であろう。
5 本判決は,入会権確認の訴えにおいて判示の方法による訴えの提起を許容する判断を示したものではあるが,その考え方は,少なくとも狭義の共有関係の確認を求める訴えについては同様に当てはまるものと解される。ただし,本件のような事例においては,入会集団の一部の構成員が土地の登記名義を有する第三者に対してその抹消登記手続を求める給付の訴えを提起することができるのかどうかも問題となるが,本判決は,この点についてまでは判断を示していないというべきであろう。本判決は,かねてから学説によっても論じられていた固有必要的共同訴訟における原告適格の問題点について,最高裁として初めての判断を示したものであり,民事訴訟の理論上も実務上も影響が少なくないと考えられる。
3.判例の残した問題
(1)原告は少数派でもよいか
(2)給付の訴えにも妥当するか
前提として
+判例(H11.11.9)
理由
上告代理人森脇勝、同河村吉晃、同今村隆、同植垣勝裕、同小沢満寿男、同岩松浩之、同田中泰彦、同山本了三、同麦谷卓也の上告理由について
一 原審の適法に確定した事実関係は、(1) Bの相続人である被上告人らは、第一審判決別紙物件目録記載(1)の土地(以下「本件土地」という。)を持分各四分の一ずつの割合で相続した、(2) 本件土地は、その北側が上告人所有の道路敷(以下「本件道路敷」という。)に、南側が同人所有の河川敷(以下「本件河川敷」という。)に、それぞれ隣接している(以下、本件道路敷及び本件河川敷を併せて「上告人所有地」という。)、(3) 被上告人らの間においてBの遺産の分割について協議が調わず、被上告人Cを除く同Aら三名(以下「被上告人Aら」という。)が同Cを相手方として申し立てた遺産分割の審判が京都家庭裁判所に係属しているところ、本件土地と上告人所有地との境界が確定していないために右手続が進行しないでいる、(4) 被上告人Aらは、本件土地と上告人所有地との境界を確定するために、被上告人Cと共同して、上告人を被告として境界確定の訴えを提起しようとしたが、被上告人Cがこれに同調しなかったことから、同人及び上告人を被告として、本件境界確定の訴えを提起した、というものである。
二 第一審は、本件土地と本件道路敷との境界は第一審判決別紙図面記載イ、ロ、ハ、ニの各点を結ぶ直線であり、本件土地と本件河川敷との境界は同図面記載ホ、ヘ、トの各点を結ぶ直線であると確定した。上告人は、被上告人Aらを被控訴人として控訴を提起し、原審において、土地の共有者が隣接する土地との境界の確定を求める訴えは共有者全員が原告となって提起すべきものであると主張し、本件訴えの却下を求めた。原審は、本件訴えを適法なものであるとし、被上告人Cも被控訴人の地位に立つとした上で、被上告人Aらと上告人との間及び被上告人Aらと同Cとの間で、それぞれ第一審と同一の境界を確定した。
三 境界の確定を求める訴えは、隣接する土地の一方又は双方が数名の共有に属する場合には、共有者全員が共同してのみ訴え、又は訴えられることを要する固有必要的共同訴訟と解される(最高裁昭和四四年(オ)第二七九号同四六年一二月九日第一小法廷判決・民集二五巻九号一四五七頁参照)。したがって、共有者が右の訴えを提起するには、本来、その全員が原告となって訴えを提起すべきものであるということができる。しかし、【要旨】共有者のうちに右の訴えを提起することに同調しない者がいるときには、その余の共有者は、隣接する土地の所有者と共に右の訴えを提起することに同調しない者を被告にして訴えを提起することができるものと解するのが相当である。
けだし、境界確定の訴えは、所有権の目的となるべき公簿上特定の地番により表示される相隣接する土地の境界に争いがある場合に、裁判によってその境界を定めることを求める訴えであって、所有権の目的となる土地の範囲を確定するものとして共有地については共有者全員につき判決の効力を及ぼすべきものであるから、右共有者は、共通の利益を有する者として共同して訴え、又は訴えられることが必要となる。しかし、共有者のうちに右の訴えを提起することに同調しない者がいる場合であっても、隣接する土地との境界に争いがあるときにはこれを確定する必要があることを否定することはできないところ、右の訴えにおいては、裁判所は、当事者の主張に拘束されないで、自らその正当と認めるところに従って境界を定めるべきであって、当事者の主張しない境界線を確定しても民訴法二四六条の規定に違反するものではないのである(最高裁昭和三七年(オ)第九三八号同三八年一〇月一五日第三小法廷判決・民集一七巻九号一二二〇頁参照)。このような右の訴えの特質に照らせば、共有者全員が必ず共同歩調をとることを要するとまで解する必要はなく、共有者の全員が原告又は被告いずれかの立場で当事者として訴訟に関与していれば足りると解すべきであり、このように解しても訴訟手続に支障を来すこともないからである。
そして、共有者が原告と被告とに分かれることになった場合には、この共有者間には公簿上特定の地番により表示されている共有地の範囲に関する対立があるというべきであるとともに、隣地の所有者は、相隣接する土地の境界をめぐって、右共有者全員と対立関係にあるから、隣地の所有者が共有者のうちの原告となっている者のみを相手方として上訴した場合には、民訴法四七条四項を類推して、同法四〇条二項の準用により、この上訴の提起は、共有者のうちの被告となっている者に対しても効力を生じ、右の者は、被上訴人としての地位に立つものと解するのが相当である。
右に説示したところによれば、本件訴えを適法なものであるとし、被上告人Cも被控訴人の地位に立つとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の各判例のうち、最高裁昭和三九年(オ)第七九七号同四二年九月二七日大法廷判決・民集二一巻七号一九二五頁は、本件と事案を異にし適切でなく、その余の各判例は、所論の趣旨を判示したものとはいえない。論旨は、右と異なる見解に立って原判決を非難するものであって、採用することができない。なお、原審は、主文三項の1において被上告人Aらと上告人との間で、同項の2において被上告人Aらと同Cとの間で、それぞれ本件土地と上告人所有地との境界を前記のとおり確定すると表示したが、共有者が原告と被告とに分かれることになった場合においても、境界は、右の訴えに関与した当事者全員の間で合一に確定されるものであるから、本件においては、本件土地と上告人所有地との境界を確定する旨を一つの主文で表示すれば足りるものであったというべきである。
よって、裁判官千種秀夫の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
+補足意見
裁判官千種秀夫の補足意見は、次のとおりである。
私は、境界確定の訴えにおいて、共有者の一部の者が原告として訴えを提起することに同調しない場合、この者を本来の被告と共に被告として訴えを提起することができるとする法廷意見の結論に賛成するものであるが、これは、飽くまで、境界確定の訴えの特殊性に由来する便法であって、右の者に独立した被告適格を与えるものではなく、他の必要的共同訴訟に直ちに類推適用し得るものでないことを一言付言しておきたい。
すなわち、判示引用の最高裁判例の判示するとおり、土地の境界は、土地の所有権と密接な関係を有するものであり、かつ、隣接する土地の所有者全員について合一に確定すべきものであるから、境界の確定を求める訴えは、隣接する土地の一方又は双方が数名の共有に属する場合には、共有者全員が共同してのみ訴え、又は訴えられるのが原則である。したがって、共有者の一人が原告として訴えを提起することに同調しないからといって、その者が右の意味で被告となるべき者と同じ立場で訴えられるべき理由はない。もし、当事者に加える必要があれば、原告の一員として訴訟に引き込む途を考えることが筋であり、また、自ら原告となることを肯じない場合、参加人又は訴訟被告知者として、訴訟に参加し、あるいはその判決の効力を及ぼす途を検討すべきであろう。事実、共有者間に隣地との境界について見解が一致せず、あるいは隣地所有者との争いを好まぬ者が居たからといって、他の共有者らがその者のみを相手に訴えを起こし得るものではなく、その意味では、その者は、他の共有者らの提起する境界確定の訴えについては、当然には被告適格を有しないのである。したがって、仮に判示のとおり便宜その者を被告として訴訟に関与させたとしても、その者が、訴訟の過程で、原告となった他の共有者の死亡等によりその原告たる地位を承継すれば、当初被告であった者が原告の地位も承継することになるであろうし、判決の結果、双方が控訴し、当の被告がいずれにも同調しない場合、双方の被控訴人として取り扱うのかといった問題も生じないわけではない。かように、そのような非同調者は、これを被告とするといっても、隣地所有者とは立場が異なり、原審が「二次被告」と称したように特別な立場にある者として理解せざるを得ない。にもかかわらず、これを被告として取り扱うことを是とするのは、判示もいうとおり、境界確定の訴えが本質的には非訟事件であって、訴訟に関与していれば、その申立てや主張に拘らず、裁判所が判断を下しうるという訴えの性格によるものだからである。しかしながら、当事者適格は実体法上の権利関係と密接な関係を有するものであるから、本件の解釈・取扱いを他の必要的共同訴訟にどこまで類推できるのかには問題もあり、今後、立法的解決を含めて検討を要するところである。
以上、判示の結論は、この種事案に限り便法として許容されるべきものであると考える。
(裁判長裁判官 元原利文 裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道)
(3)被告にされた原告適格者の訴訟上の地位はどうなるのか
三面訴訟関係になる・・・
→47条4項を類推適用して、40条を準用することができる
+(独立当事者参加)
第47条
1項 訴訟の結果によって権利が害されることを主張する第三者又は訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する第三者は、その訴訟の当事者の双方又は一方を相手方として、当事者としてその訴訟に参加することができる。
2項 前項の規定による参加の申出は、書面でしなければならない。
3項 前項の書面は、当事者双方に送達しなければならない。
4項 第40条第1項から第3項までの規定は第一項の訴訟の当事者及び同項の規定によりその訴訟に参加した者について、第43条の規定は同項の規定による参加の申出について準用する。
+(必要的共同訴訟)
第40条
1項 訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合には、その一人の訴訟行為は、全員の利益においてのみその効力を生ずる。
2項 前項に規定する場合には、共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為は、全員に対してその効力を生ずる。
3項 第一項に規定する場合において、共同訴訟人の一人について訴訟手続の中断又は中止の原因があるときは、その中断又は中止は、全員についてその効力を生ずる。
4項 第32条第1項の規定は、第1項に規定する場合において、共同訴訟人の一人が提起した上訴について他の共同訴訟人である被保佐人若しくは被補助人又は他の共同訴訟人の後見人その他の法定代理人のすべき訴訟行為について準用する。
(4)既判力の主観的範囲はどうなるか
XY、XZとの間では生じるが、ZY間では生じない
→40条の適用との関係で問題が。
請求の擬制を・・・
(5)平成20年判決以降の判例の展開
+判例(H22.3.16)
理 由
第1 上告人Y の代理人天野茂樹及び上告人らの代理人北村明美の各上告理由について
1 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは,民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ,上告人Y の代理人天野茂樹の上 2告理由は,理由の不備をいうが,その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって,上記各項に規定する事由に該当しない。
2 上告人らの代理人北村明美の上告理由は,上告人Y の関係では,これを記 2載した書面が民訴規則194条所定の上告理由書提出期間後に提出されたことが明らかであり,上告人Y との関係では,民訴法312条1項又は2項に規定する事 1由を主張するものではないことが明らかである。
第2 職権による検討
上告人らの代理人北村明美の所論にかんがみ,職権をもって検討する。
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) Aは,平成17年12月17日に死亡した。
(2) 上告人Y ,同Y 及び被上告人は,いずれもAの子である。
(3) 上告人Y は,第1審判決別紙のとおりのA名義の遺言書を偽造した。
2 本件は,被上告人が,上告人らに対し,上告人Y が民法891条5号所定の相続欠格者に当たるとして,同Y がAの相続財産につき相続人の地位を有しないことの確認等を求める事案である(以下,上記確認請求を「本件請求」という。)。
3 第1審は,本件請求を棄却したため,被上告人がこれを不服として控訴したところ,原審は,本件請求を棄却した第1審判決を上告人Y に対する関係でのみ取り消した上,同Y に対する本件請求を認容する一方,同Y に対する被上告人の控訴を,控訴の利益を欠くものとして却下した。
4 しかしながら,原審の上記判断は,以下の(1)及び(2)の各点において,是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 被上告人の上告人Y に対する控訴の適否について本件請求に係る訴えは,共同相続人全員が当事者として関与し,その間で合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟と解するのが相当である(最高裁平成15年(受)第1153号同16年7月6日第三小法廷判決・民集58巻5号1319頁)。したがって,本件請求を棄却した第1審判決主文第2項は,被上告人の上告人Y に対する請求をも棄却するものであるというべきであって,上記3の訴訟経過に照らせば,被上告人の上告人Y に対する控訴につき,控訴の利益が認められることは明らかである。
(2) 本件請求に関する判断について
ア 本件請求に係る訴えは,固有必要的共同訴訟と解するのが相当であることは前示のとおりであるところ,原審は,本件請求を棄却した第1審判決を上告人Y2に対する関係でのみ取り消した上,同Yに対する本件請求を認容する一方,同Yに対する控訴を却下した結果,同Yに対する関係では,本件請求を棄却した第1審判決を維持したものといわざるを得ない。このような原審の判断は,固有必要的共同訴訟における合一確定の要請に反するものである。
イ そして,原告甲の被告乙及び丙に対する訴えが固有必要的共同訴訟であるにもかかわらず,甲の乙に対する請求を認容し,甲の丙に対する請求を棄却するという趣旨の判決がされた場合には,上訴審は,甲が上訴又は附帯上訴をしていないときであっても,合一確定に必要な限度で,上記判決のうち丙に関する部分を,丙に不利益に変更することができると解するのが相当である(最高裁昭和44年(オ)第316号同48年7月20日第二小法廷判決・民集27巻7号863頁参照)。そうすると,当裁判所は,原判決のうち上告人Y に関する部分のみならず,同Yに関する部分も破棄することができるというべきである。
5 以上によれば,上記各点に係る原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は,全部破棄を免れない。そして,上記事実関係によれば,上告人Y は民法891条5号所定の相続欠格者に当たるというべきところ,記録によれば,同Y 及び同Y は,第1審及び原審を通じて共通の訴訟代理人を選任し,本件請求の当否につき,全く同一の主張立証活動をしてきたことが明らかであって,本件請求については,同Y のみならず,同Y の関係においても,既に十分な審理が尽くされているということができるから,第1審判決のうち同Y 及び同Yに対する関係で本件請求を棄却した部分を取り消した上,これらの請求を認容すべきである。なお,上告審は,上記のような理由により原判決を破棄する旨の判決をする場合には,民訴法319条並びに同法313条及び297条により上告審の訴訟手続に準用される同法140条の規定の趣旨に照らし,必ずしも口頭弁論を経ることを要しないものというべきである。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田原睦夫 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男 裁判官那須弘平 裁判官 近藤崇晴)
++解説
ほしいね。
+判例(H16.7.6)
理由
上告代理人福地絵子、同福地明人の上告受理申立て理由について
1 記録によれば、本件の概要は、次のとおりである。
(1) A(以下「A」という。)は、平成9年3月14日死亡した。その法定相続人は、妻であるB並びに子である上告人、被上告人、C及びDである。
(2) 上告人は、被上告人がAの遺言書を隠匿し、又は破棄したものであり、被上告人がした上記行為は民法891条5号所定の相続欠格事由に当たると主張し、被上告人のみを被告として、被上告人がAの遺産につき相続人の地位を有しないことの確認を求める本件訴訟を提起した。
2 被相続人の遺産につき特定の共同相続人が相続人の地位を有するか否かの点は、遺産分割をすべき当事者の範囲、相続分及び遺留分の算定等の相続関係の処理における基本的な事項の前提となる事柄である。そして、共同相続人が、他の共同相続人に対し、その者が被相続人の遺産につき相続人の地位を有しないことの確認を求める訴えは、当該他の共同相続人に相続欠格事由があるか否か等を審理判断し、遺産分割前の共有関係にある当該遺産につきその者が相続人の地位を有するか否かを既判力をもって確定することにより、遺産分割審判の手続等における上記の点に関する紛議の発生を防止し、共同相続人間の紛争解決に資することを目的とするものである。このような上記訴えの趣旨、目的にかんがみると、上記訴えは、共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要するものというべきであり、いわゆる固有必要的共同訴訟と解するのが相当である。
3 以上によれば、共同相続人全員を当事者としていないことを理由に本件訴えを却下した原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切なものとはいえない。論旨は、採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 藤田宙靖)
++解説
《解 説》
1 本件は,共同訴訟人間における相続人の地位不存在確認の訴えが,固有必要的共同訴訟であるかどうかが問題となった事案である。
2 被相続人Aの法定相続人は,妻であるB及び子であるX,Y,C及びDの5名であった。Xは,Yが,被相続人Aの遺言書を隠匿し,又は破棄したとして,Yに民法891条5号の相続欠格事由があると主張し,相続人間の遺産分割手続では,この点が大きな争いとなった。Xは,Yを相手方として,Aの遺産につきYが相続人の地位を有しないことの確認を求める訴えを提起した。
1審は,Xの主張を認めて,Xの請求を認容した。これに対し,原審は,本件訴えは,共同相続人全員の間において合一に確定することを要する固有必要的共同訴訟であるところ,共同相続人の全員が訴訟当事者になっておらず,不適法であるとして,これを却下した。Xが上告受理の申立てをして,これが受理された。
本判決は,共同相続人が,他の共同相続人に対し,その者が被相続人の遺産につき相続人の地位を有しないことの確認を求める訴えは,固有必要的共同訴訟であると判示し,共同相続人全員を当事者としていないことを理由に本件訴えを却下した原審の判断は正当として是認することができるとして,上告を棄却した。
3 共同相続人間の遺産分割の前提問題としては,相続人の範囲,遺産の範囲,遺言,遺産分割協議の効力,具体的相続分等の多様な問題がある。このうち,遺産確認の訴え(最一小判昭61.3.13民集40巻2号389頁,判タ602号51頁),遺言無効確認の訴え(最三小判昭47.2.15民集26巻1号30頁)について,最高裁は確認の利益を認めている。これに対し,最一小判平12.2.24民集54巻2号523頁,判タ1025号125頁は,いわゆる具体的相続分の価額又は割合の確認を求める訴えは確認の利益を欠くものと判示している。
本件は,XがYに相続欠格事由があると主張した事案である。民法は,被相続人の子等被相続人と一定の身分関係にある者が相続人となるとした上,民法891条各号の者は相続人となることができないと規定している。上記身分関係の存否を確定するには,本来的には人事訴訟によることになるが,民法891条各号の事由の存否を人事訴訟で争うことはできない。そして,同条各号に定める事実自体の確認を求めることは困難と解されるが,相続人の地位にあるかどうかということは,現在の法律関係といえる(最大決昭41.3.2民集20巻3号360頁,判タ189号82頁参照)から,確認の対象として有効適切でないとはいえず,即時確定の利益があれば,相続人の地位の不存在を確認することは許されると解される。学説も,一般に,相続欠格事由のあることを理由に相続権ないし相続人の地位不存在確認の訴えを提起することができると解している(新版注釈民法(26)〔加藤永一〕311頁,田中恒朗・遺産分割の理論と実務39頁,山崎まさよ「相続権存否確認の訴え」判タ688号219頁等)。最高裁判例で,相続人の地位不存在確認の訴えの確認の利益について明示に判断したものは見当たらないが,最三小判平9.1.28民集51巻1号184頁,判タ933号94頁(民法891条5号の規定の解釈が問題となった事案)は,共同相続人間の相続人の地位不存在確認の訴えについて実体判断をした原審の判断を是認しており,当該訴えにつき確認の利益があることを前提とした判断であると解される。
4 固有必要的共同訴訟とは,全員が漏れなく共同原告又は共同被告として訴え又は訴えられるのでなければ当事者適格を欠くことになるものである。共同相続人間の相続人の地位不存在確認の訴えが固有必要的共同訴訟であるかどうかという点について判示した最高裁判例は見当たらず,下級審裁判例としても,本件の原審が最初のものであると思われる。なお,前掲最三小判平9.1.28は,共同相続人の全員が当事者となっており,いずれの説でも説明が可能な事案であった。
相続人の地位不存在確認の訴えの適法性を肯定する文献も,この点については言及していないものが多い。固有必要的共同訴訟と解することによって紛争の一回的解決を図ることができる反面,訴訟が複雑となり,手続的負担が過大となるおそれがあるといわれる。最高裁は,多数当事者間の訴訟について個別訴訟の余地を広く認めるようになっており,上記文献も,特に議論をしていないということは,通常共同訴訟であることを暗黙の前提としているようにも解される。他方,最三小判平1.3.28民集43巻3号167頁,判タ698号202頁は,共同相続人間における遺産確認の訴えは共同相続人全員が当事者として関与することを要する固有必要的共同訴訟であると判示しており,学説には,相続人の地位存否確認の訴えが固有必要的共同訴訟であると解すべきであると明言するもの(山本和彦「遺産確認の訴えと固有必要的共同訴訟」ジュリ946号53頁,杉山智紹・民訴法判例百選Ⅱ[新法対応補正版]365頁)がある。
共同相続人間の相続人の地位不存在確認の訴えは,広い意味で遺産という共有物をめぐる訴訟といえる。遺産の共有関係を民法上の共有関係と考えて,遺産について各人の共有持分権を観念することができるとすると,共有持分権を主張する訴訟は,通常共同訴訟ではないかと考えられる。しかしながら,相続人の地位不存在確認の訴えは,被告の共有持分権の存否を問題とする訴訟ではなく,遺産について共同相続人間に共有関係が存在するかどうかという共有者たる人の範囲を確定する訴訟であるといえる。これを遺産確認の訴えとの対比でいえば,遺産確認の訴えが,共同相続人間の遺産の共有関係を特定の物の遺産帰属性という視点で確定するのに対し,相続人の地位不存在確認の訴えは,遺産の共有関係を特定の者の相続人の地位の有無という視点で確定するものである。そして,目的物件について,一定数の数人の間に共有関係が存在するかどうかについての争いは固有必要的共同訴訟と解されている(菊井維大=村松俊夫著・コンメンタール民事訴訟法Ⅰ378頁等,大判大2.7.11民録19輯662頁)。
共同訴訟人間で被相続人の遺産につき相続人の地位の不存在を確定する確認の利益が認められるのは,遺産分割手続等の前提問題として,相続人の範囲についての争いを解決する必要があることによると考えられる。ところで,共同相続人の間で,個別に相続人の地位を確定することが可能であるとすると,個別訴訟の結論が矛盾した場合に,遺産分割手続でどちらの訴訟の結論を優先させるかという理論上困難な問題が生ずることになる。実際の解決としては,遺産分割手続は,いずれも訴訟の結論にも拘束されず,独自の立場で,相続人の地位の存否を確定するということも考えられるが,このような解決は,既判力理論に照らして疑問の余地があるし,訴訟の結論が遺産分割手続を拘束しないという結論を是認するのであれば,そのような確認訴訟を認めることが紛争解決に有効適切といえるかどうか疑問となり,確認の利益があるという前提自体に疑問が生ずることとなろう。共同相続人間の相続人の地位不存在確認の訴えの機能は,遺産帰属性を確定するか相続人の地位を確定するかという違いはあるものの,遺産確認の訴えの機能と同様であり,本件のような共同相続人間の相続人の地位不存在確認の訴えは,その確認の利益を肯定する限りは,固有必要的共同訴訟と解するのが相当であると考えられる。このように考えると,原告となる者の負担が増えることは否定できないが,遺産分割審判手続は共同相続人の全員を当事者としていなければならないと解されていることからすると,共同相続人の全員を当事者として手続を進めなければならないことはやむを得ないと考えられるし,原告の立場に同調しない共同相続人は,被告とすればよいと解されるから,原告の訴え提起が著しく困難になるということもないと思われる。
なお,遺産分割手続では遺言の有効性も前提問題となり得るところ,一般に,遺言無効確認の訴えは,通常共同訴訟とされている(事例判例であるが,最二小判昭56.9.11民集35巻6号1013頁,判タ454号84頁)が,遺言無効確認の訴えと遺産確認の訴え・相続人の地位不存在確認の訴えとは,事案を異にすると考えられる(平1最判解説(民)113頁注18[田中壮太],山本・前掲53頁)。
5 本判決は,共同相続人間の相続人の地位不存在確認の訴えが,共同相続人の全員が関与し,合一確定を要する固有必要的共同訴訟であることを明示した最高裁判決であり,実務上参考となろう。
+判例(H1.3.28)
理由
上告代理人丸茂忍の上告理由第二点について
遺産確認の訴えは、当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴えであり、その原告勝訴の確定判決は、当該財産が遺産分割の対象である財産であることを既判力をもつて確定し、これに続く遺産分割審判の手続及び右審判の確定後において、当該財産の遺産帰属性を争うことを許さないとすることによつて共同相続人間の紛争の解決に資することができるのであつて、この点に右訴えの適法性を肯定する実質的根拠があるのであるから(最高裁昭和五七年(オ)第一八四号同六一年三月一三日第一小法廷判決・民集四〇巻二号三八九頁参照)、右訴えは、共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
その余の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 安岡滿彦 裁判官 伊藤正己 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己)